不動産お役立ちコラム
“用途地域”とは? 暮らしに身近な「都市計画法」について

土地利用と暮らしを左右する制度の仕組み

日本の都市や街並みを歩くと、住宅街、商業地、工業地帯といった具合に、それぞれ性格の異なる地域が存在します。静かな住宅街に突然大規模工場が建ってしまうと、住民の生活環境は大きく損なわれます。その一方で、商業エリアや工業エリアでは、活発な経済活動を阻害せずに発展を促す必要もあります。こうした土地利用の調整を目的として定められているのが都市計画法の用途地域制度です。
用途地域は都市計画法の根幹をなす仕組みのひとつであり、建築可能な建物の種類や規模、さらには土地の資産価値や固定資産税額にも大きな影響を与えます。本稿では、用途地域の定義と種類、建築制限の内容、歴史的背景、そして不動産取引や生活への影響について詳しく解説します。
用途地域とは何か

用途地域とは、都市計画法第8条に基づき、市街地の土地利用を適正に誘導するために定められる地域区分です。市街化区域の中で、用途に応じた土地の使い方をあらかじめルール化することで、無秩序な開発を防ぎ、良好な都市環境を確保することを目的としています。
用途地域の種類と特徴(早見表)

用途地域は 住居系8種類、商業系2種類、工業系3種類 の計13種類があります。以下の表は、それぞれの地域の特徴を簡単にまとめたものです。
区分 | 用途地域 | 主な特徴 | 建築できる建物の例 | 建築制限の目安 |
---|---|---|---|---|
住居系 | 第一種低層住居専用 | 良好な戸建て住宅環境を保護 | 戸建住宅、小規模診療所 | 高さ制限10mまたは12m、低容積率 |
住居系 | 第二種低層住居専用 | 第一種よりやや緩和 | 小規模店舗併設住宅 | 同上 |
住居系 | 第一種中高層住居専用 | 中高層住宅中心 | マンション、学校 | 容積率中程度 |
住居系 | 第二種中高層住居専用 | 店舗も許容 | マンション、店舗併用住宅 | 同上 |
住居系 | 第一種住居地域 | 住居を中心に利便施設も | スーパー、小規模事務所 | 容積率中程度 |
住居系 | 第二種住居地域 | 商業利用も広く許容 | 中規模店舗、飲食店 | 高容積率可能 |
住居系 | 準住居地域 | 幹線道路沿い想定 | 車関連施設、店舗 | 容積率比較的高い |
住居系 | 田園住居地域 | 住宅と農地の調和 | 低層住宅、農業関連施設 | 高さ・容積は低め |
商業系 | 近隣商業地域 | 生活商業中心 | スーパー、銀行、飲食店 | 高容積率可能 |
商業系 | 商業地域 | 繁華街中心 | 百貨店、ホテル、劇場、事務所 | 容積率最高レベル |
工業系 | 準工業地域 | 住宅と軽工業混在 | 印刷所、食品加工 | 容積率中~高 |
工業系 | 工業地域 | 工場を広く許容 | 倉庫、製造業施設 | 高容積率可能 |
工業系 | 工業専用地域 | 工業に特化 | 大規模工場 | 住宅建築不可 |
用途地域による主な建築制限一覧

用途地域ごとに、建築物に対して以下のような規制がかかります。
- 建築可能用途
→ 住居系地域では工場は不可、工業地域では住宅は不可など、地域に応じた制限。 - 建ぺい率・容積率
→ 住居系では低め、商業系・工業系では高めに設定される傾向。 - 高さ制限
→ 第一種低層住居専用地域では10mまたは12mまでの絶対高さ制限。 - 斜線制限
→ 道路や隣地の日照・通風を守るために建物の高さ形状を制約。 - 防火・準防火地域の指定
→ 商業地域や都市中心部では耐火構造の義務化。
関連法制度との関係

用途地域は単独で存在するのではなく、以下の制度と密接に関わります。
- 建築基準法:用途制限、容積率・建ぺい率、斜線制限の根拠法。
- 農地法:農地転用に関する規制。
- 景観法・地区計画:景観や街並みに配慮した追加規制。
用途地域がもたらす影響

生活環境
→ 住居系は静かで落ち着いた環境、商業地域は利便性重視、工業地域は就業拠点。
不動産価値
→ 商業地域は利便性が高いため地価も高い。工業専用地域は利用目的が限定されるため相対的に低い。
税負担
→ 用途地域による評価額の差は固定資産税や都市計画税にも影響。
市街化調整区域との違い

用途地域は市街化区域内でのみ指定され、市街化調整区域には用途地域は存在しません。
調整区域では原則として建築が禁止され、農地や自然環境が優先されます。
まとめ
用途地域は都市計画法に基づき、土地利用を13種類に区分して調整する制度です。
それぞれの地域で建てられる建物・規模が異なり、生活環境や地価に大きな影響を与えます。
土地を購入・利用する際には、必ず用途地域を確認することが重要です。
参照: